小説には人生のモデルがある
井原西鶴の『好色一代男』と『好色一代女』を対で選んで、著者は 「幸福」について文学のジャンルから語ることに成功しています。
幸福を論じるのに色とよくに生きた男女の物語を取り上げるのは奇異に思われるかもしれませんが、確信的理由があるそうです。
基本的に小説というのは、一人の男または女の一生を描くもの。人生の浮き沈みを経験しながら、主人公は最後に何かを悟ったり、あるいは悟ったと同時に死んだりします。
作者は、幸福のありようは直接読者に訴えることはなく、教訓は物語の背後に退けます。よって、小説を読んで、確固たる「幸福の秘術」を得ることは難しいでしょう。
しかし、人間は、長きにわたって小説を愛好してきました。それはなぜか?自分も小説に描かれたヒーローやヒロインのように生きてみたいと憧れたり、「こうはなりたくない」という反面教師に仕立てたりしたがるからです。
私たちは、自分の人生がハッピーエンドを迎えるか、アンハッピーエンドととなるか、まだ人生の半ばにいる現時点では知ることができません。わからないがゆえに、理想形としてのモデルを、小説の主人公に見出してきたのです。つまり小説には、生き方のマニュアルはなくとも、具体的な人生のモデルがあるのです。
西鶴のこの二つの物語は、それぞれ放蕩息子の一代記であり、絶世の美女の数奇な人生の回想録です。それらが男女の理想とすべき人生であるかどうかは別として、ここに描かれた人間の営みから、学ぶことはたくさんあるようです。
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